放射線治療品質管理

ご挨拶

公益財団法人医用原子力技術研究振興財団(以下、医用原子力財団)は、2004(平成16)年4月より,放射線治療用の線量計感度の比較校正事業を行っております。本事業は,それまで(社)日本医学放射線学会(JRS)によって行われていた線量計校正システムを継承し発展させたものであり、財団内に設けられた線量校正センターにおいて業務を実施しております。事業の継承以来、校正業務は順調に拡大しており、2018(平成30)年度の校正件数は、継承時の2倍に達し、また校正を依頼する施設も我が国の放射線治療施設のほとんどすべてを網羅しております。当財団の校正が、線量計ユーザーの皆様に受け入れられ定着しているものと考え、ユーザー並びに関係各位に厚く感謝の意を表する次第です。

また、この間、関連技術の進展、ユーザーの要望、線量計測プロトコルの改訂などに対応して、線量校正センターの事業内容にもいくつかの変更・追加がありました。

第1は、2007年11月より新たに開始したガラス線量計の宅配システムによる出力測定サービスです。これは、第三者評価の一つであり、全国の医療機関における放射線治療装置の線量評価が、国内あるいは国際的な基準に一致していることを、外部機関としてチェックすることを目的としています。2000年代前半に放射線治療の際の誤照射事故が続発し、恒久的な第三者評価の機運が高まりました。当財団としても線量計校正と出力線量評価は車の両輪であり、第三者的立場での評価は校正業務の一環であると捉え本業務を開始したものです。関係機関のご尽力もあり、出力測定を依頼するユーザーも近年増加し、治療施設の過半から依頼を受けるに至っております。

第2は、計量法校正事業者登録制度(JCSS)への登録です。JCSSとはトレーサビリティ体系の普及を図り各種の校正機関の能力を判定し保証する制度であります。当財団による線量計の校正事業は、2008年11月に製品評価技術基盤機構より登録証が交付され、2009年1月より全ての校正結果を、JCSS標章付校正証明書としてユーザー各位のお手元に届けております。この証明書によりユーザーが正しいプロトコルにより線量を評価する場合、その線量は国家標準につながる信頼性を持つものであることが保証されております。

第3は、校正定数の不確かさの改善とユーザー側での作業の負担軽減を目的とした水中での測定による水吸収線量校正定数の直接決定と電離箱・電位計の分離校正です。水中校正については、2012年10月より、また分離校正については2018年7月より実施しております。

以上のように当財団の実施する線量計校正と出力測定事業の全国的な普及により、我が国の放射線治療は、国家標準につながる統一した線量を用いて実施されていると言える段階に達しました。しかし、近年、盛んになった強度変調放射線治療(IMRT)など高精度放射線治療においては、線量だけではなく照射領域にも高い精度が要求されています。このため、照射領域と線量が処方通りであることを患者ごとに検証する放射線治療品質管理(QA)が必須となっています。欧米においては、このような放射線治療QAを第三者として評価するサービスが始まっております。当財団におきましても、校正事業や出力測定事業の延長としてこのようなサービスをユーザーに提供できないか検討しています。

放射線治療は、手術および薬剤治療と並んだがん治療の重要な柱であり、2015年には約27万人の患者が放射線治療を受けています。放射線治療では医師の処方通りの線量を処方通りの部位に照射する必要があり、それぞれの治療施設においてはそれを検証するため治療QAに多大な努力を払っておられます。当財団においても線量計校正と出力測定事業、さらには施設の治療QAの第三者評価を通じて、微力ながら各施設のお役に立ちたいと考えております。ユーザーおよび関係各位のご理解とご協力を心より願って止みません。今後とも宜しくお願い申し上げます。

2019年10月1日
線量校正センター長 遠藤真広