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普及啓発

粒子線がん治療等に関する施設研究会

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粒子線(重粒子線・陽子線)がん治療は、高精度な治療技術に求められる所要の機器やシステムをはじめ、施設全体の設計、機器配置、建設、および遮蔽等さまざまな関連分野において、研究開発および技術的対応、規格基準の整備など、適確に対応していくことが求められております。さらにこれらは、実際の医療の臨床現場での治療技術とのインターフェイスが重視され、システムとしての調和や品質管理も重要となっております。
 「粒子線がん治療等に関する施設研究会」は、粒子線治療施設建設の視点から、 先行施設の実地調査を行うとともに、実際に治療に携わっている専門家から講義を受け、現状を把握した上で、普及に係る課題・対策の分析・ 検討に資するとともに、関係組織相互の情報の共有化をはかり、専門知識を有する人材育成をはじめ関連産業の育成・発展に寄与することを目的に実施しております。
 研究会会員は、設計、建設、装置製造、情報処理、保険等幅広い関連分野の技術者、研究者および実務者で構成され、国内外における粒子線がん治療等に関する医療情報、研究・技術開発動向、ならびに関連法令や技術基準の動向などの現状および将来見通しや課題・対策などに関して、講演および関連施設の見学および意見交換を行っております。

【主査】

遠藤 真広 公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団 常務理事



【最新の活動報告】 会員登録についてはこちらをご確認下さい

「令和2年度粒子線がん治療等に関する施設研究会」第1回研究会(オンライン講演会)

「令和2年度第1回施設研究会」は、令和2年10月13日(火)にオンライン講演会として開催し、建設、設計、メーカー等から54名の参加がありました。

 はじめに 遠藤真広 主査 から挨拶があった後、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子医学・医療部門 放射線医学総合研究所 物理工学部 部長 白井敏之 氏より「次世代重粒子線治療装置『量子メス』の開発」 について、また、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子医学・医療部門 放射線医学総合研究所 分子イメージング診断治療研究部 部長 東 達也 氏より「標的アイソトープ治療研究開発の現状と展開」について講演がありました。



次世代重粒子線治療装置「量子メス」の開発

     

   国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 

量子医学・医療部門 放射線医学総合研究所 

物理工学部                

               部長 白井敏之            

―QST病院における炭素線がん治療―

 量子科学技術研究開発機構(以下、量研機構)のQST病院では、年間約800人の患者さんに炭素線治療を行っており、保険収載の流れを受けて、内約6割を保険診療(約3割先進医療)で行っています。一方、研究病院として積極的に臨床試験も実施しています。そのような中で炭素線治療は、①他の治療法では治療が困難ながんに有効、②一般的ながんに対しては、短期間・少ない有害事象で治療を実施することができる、ということがわかってきました。装置面においても、近年の技術進歩は著しく、様々な装置が開発されました。3次元スキャニング照射装置の開発は、複雑な形状の腫瘍にも正確に照射可能とし、強度変調型炭素線治療も可能にしました。高速3次元スキャニング照射装置の開発では、一度の呼気時に一断面を重ね塗りすることで、肺・肝臓・すい臓の治療を可能にしました。また、3次元スキャニング照射装置とX線透視を用いた呼吸同期装置を搭載した小型炭素線回転ガントリーが開発され、360度どの角度からも腫瘍を正確に照射することが可能になりました。また、IGRTの実装も進みつつあります。

―次世代(第4世代)治療装置―

 陽子線治療装置の開発製造の例では、以前は大型治療施設の製造が中心であったものが、近年ではシングルガントリーの小型施設が多く作られるようになり、将来的には治療室に入るような小型装置の開発が進められています。炭素線治療装置においても、既存の施設は全て治療室を3~4室備えた大型施設ですが、炭素線治療の普及が進み、より保険収載が進めば、小型治療施設のニーズが出てくるでしょう。

 炭素線は陽子線に比べて3倍の運動量があるので3倍の装置サイズが必要となり、治療施設の大型化、建設コストの高騰は避けられないといったデメリットがあります。一方で炭素線の持つ高線量集中性、高生物効果で、現在の照射分割回数は陽子線治療の1/2~1/3程度で収まり、1装置当たりの治療可能患者数は比較的多いといったメリットがあります。大規模病院を除き、一般病院ではシングルガントリー、1治療室の小型施設が向いていると考えています。

 量研機構では、2017年より次世代小型高性能重粒子線がん治療装置「量子メス」の開発に着手し、シンクロトロン・回転ガントリーの更なる小型化やLET制御治療(マルチイオン治療)の臨床に向けた研究開発を進めています。

 シンクロトロンの小型化には①430MeV/u(3.5T)まで5秒で加速する液体ヘリウムを使用しない医療用超伝導電磁石の開発、②直線部分の短縮化、③高線量率の保持、が大きな課題でした。ビーム光学設計と並行し、超伝導電磁石の開発として磁場設計、超低交流損失超伝導線の開発、構造設計、製作技術の開発を行い、試作製造は今年度終了する予定です。現在4台の90度の超伝導磁石を用いて直径7m、周長28mとなる装置の設計を進めています。

 回転ガントリーの小型化には、超伝導技術が用いられています。超伝導状態(<4K)では電気抵抗が消失するため、大電流をロスなく流すことが可能となり、通常の電磁石(1.5T)より、大幅に磁場を高くすることができます。その結果、治療装置で使用される電磁石の小型化が可能となります。

 次世代の炭素線治療装置は、(技術が確立した)既存の入射器 +(新たに開発した)超伝導シンクロトロン +(メーカーが供給している)超伝導回転ガントリーを組み合わせることで、照射装置を含め35m×30m、1,000㎡で構成できると考えています。

 治療の短期化・高度化に向けた研究開発では、少ない治療室数で多くの患者さんを治療する事が必須アイテムなため力を入れてきました。

 放射線治療では、局所制御の向上、治療の短期化のために、1回の照射線量増加が求められます。しかし、それに伴う正常組織線量の増加、副作用の増加が起こるため、IGRTやIMPT等の照射技術を用いて正常組織線量の低減を図っています。量子メスは、線量を上げるのではなく一定に保ち、1回の照射の生物効果を増加させるというアプローチを考えています。この場合、正常組織線量は一定に保たれるため、副作用は増えにくく、一方で生物効果の向上により、より難治性の低酸素の領域に対する治療効果の向上が期待できます。これに加えてIGRTやIMPTを併用し、さらに正常組織への線量を低減して、制御の向上および治療の短期化の両立を目指しています。

 生物効果が高いということは電離密度(以下LET)が高いことを表しておりX線、陽子線に比べ高いLETを持つ炭素線はDNAに複雑な切断を与えるがために、低酸素状態の腫瘍に対しても効果的に作用し、高い生物効果が得られます。炭素線は他より低い線量で同じ効果を期待できるということです。

 LET向上が期待できる機能にLETペインティング(N.Basslerによる)があります。量研機構では、この機能を利用して炭素線治療の研究を重ねた結果、有益な結果が得られました。既存の炭素線装置でも利用可能であるため、臨床試験を計画しています。LETペインティングを更に進めて、イオンをミックスさせて(腫瘍の中心部:炭素よりも生物効果の高い酸素、腫瘍中心の周辺・浸潤領域:従来の実績のある炭素、正常組織近傍:副作用低減のために炭素より生物効果の低いヘリウム)LET分布を作れば、低酸素特異的に効果を発揮できるのではないかと考えています。複数のイオンを利用したマルチイオン照射は、各施設が所有しているスキャニング装置を利用することで実現可能になることが大きな特徴です。



 量研機構では、治療室において、4イオンビーム(He, C, O, Ne)を用いた細胞照射を実施し、マルチイオン治療計画装置が、細胞の生残率を予測できることを確認しました。2020年度中にHIMACマルチイオン対応が完了し2021年度からの臨床試験開始を予定しています。

―次々世代(第5世代)治療装置―
 さらに次々世代にはin-room シングルガントリーの治療施設が、既存の治療室2室分(1室に入射機とシンクロトロン、1室に回転ガントリー治療室)のスペースで建設可能になると考えています。そのためには、①レーザー駆動イオン加速技術による入射器の小型化、②回転ガントリーの更なる小型化、③治療短期化の臨床研究による治療室数の削減、が必要です。

注:レーザー駆動イオン加速技術の原理

  1. 標的薄膜(最大でも数μm)に対して高強度レーザーを照射すると高エネルギー電子(MeV級)が加速される。
  2. 裏面へ飛び出した高速電子が標的中のイオンとの間で分極電場を生成する。
  3. 分極電場がレーザー駆動イオンを加速する。

 レーザー駆動イオン加速技術により、放電限界を超えて桁違いに大きな加速電場が発生します。この技術の基となったのは量研機構の超高強度ペタワットレーザー J-KAREN を用いて行われてきた実験で、入射器に必要とされる4MeV/uの炭素線を、1回あたり、10 8個以上加速できています。量研機構では、この実績をもとに、他研究所と共同でレーザー加速技術の開発を進めており、現在、実証機を構築し、10Hzでレーザーを標的に照射して加速する試験を進めています。

 回転ガントリーの更なる小型化については、既存の病院施設ではフロア高さの制限があるため、回転ガントリー半径の縮小化が重要です。そのため、偏向電磁石の小型化(高磁場化)では不十分で、照射ポートの短尺化が不可欠です。量研機構では、他機関と共同で高温超伝導磁石を開発し高磁場化(6T)を進めるとともに、超伝導スキャンニング磁石による照射ポートの短尺化の基礎研究を進めています。

 臨床面では、量子メスと標的アイソトープ治療を含めた薬剤との併用や、免疫制御治療との併用も選択肢に加えることで、より良い治療が実現すると考えています。現在ガンマナイフ等で治療している良性腫瘍や血管性疾患、カテーテルアブレーション等で治療している心室、心房細動不整脈等の非がん疾患も、量子メスでの治療が可能となるよう、適応疾患の拡大についても研究開発を進めています。



標的アイソトープ治療研究開発の現状と展開

          国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 

量子医学・医療部門 放射線医学総合研究所 

分子イメージング診断治療研究部     

部長 東 達也            

 標的アイソトープ治療(以下TRT)とは、分子標的を利用して、細胞障害性の高い放射性核種を、がんに特異的に集積させ、がん細胞を消失させる治療法です。1.投与した薬剤が血液に乗って運ばれ、標的まで到達する。→2.標的細胞に取り込まれる。→3.中で放射線を出す。すなわち、薬剤であるとともに放射線治療であるというのが特徴です。これと同じ原理を利用して、放射性核種を分子標的によりがんに特異的に集積させ、それを光らせることでがんが明瞭になり、診断をする、がんの分子イメージングがあります。個々の患者の病変の位置やその性質を診断し(代謝診断)、それに適した治療かどうか(治療適格性)を判定し、治療を行う「診断と治療の融合(Thera(g)nostics)」が世界的潮流となっており、今後のがん診療の主流となると考えられます。

1.ヨウ化ナトリウム(131Ⅰ)カプセル「ヨウ化ナトリウムカプセル30号」

  ・効能効果:バセドウ病、分化型甲状腺癌の転移巣、

   甲状腺全摘術後の残存甲状腺破壊(アブレーション)治療。  

  ・1942年から使われている最古の、かつ今でも使われているTRT治療薬。

  ・131Ⅰγ線で診断し、131Ⅰβ線で治療する。診断、治療の両方に使用。

  ・γ線が放出されるため入院が必要で、治療ベッド数不足が問題視されていたが、近年
   では外来治療へ一部シフトし、やや回復傾向にある。

2.「ゼヴァリン インジウム(111In)静注用セット」および

  「ゼヴァリン イットリウム(90Y)静注用セット」

  ・効能効果: CD20陽性の再発または難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫、
   マントル細胞性リンパ腫 

  ・インジウム(111In)で診断し、イットリウム(90Y)で治療する。

  ・抗体にキレート剤(90Yとイブリツモマブを統合する役割を持つ)を介し90Yが付きβ線を放出する。
   抗体を利用した新世代治療薬。

  ・マウス型モノクローナル抗体のため、2回目に過敏反応が起こりえるとして生涯1度きりの使用
   として承認されている。普及は進んでいない。

3.塩化ストロンチウム(89Sr)注射液「メタストロン注」

  ・効能効果:骨転移部位の疼痛緩和  

  ・最古の、かつ今でも使われているTRT治療薬。

  ・骨シンチで診断して塩化ストロンチウム(89Sr)で治療する。

  ・カルシウムの同族体で痛む骨だけに集中して集積する。同部でβ線を放出し、疼痛を緩和する。
   腫瘍細胞そのものに89Srがくっつくわけではないので、直接の抗腫瘍効果はない。

  ・2007年に国内承認されたが、2019年に販売中止となった。

4.MIBG

  ・効能効果:神経内分泌腫瘍に対する131I-MIBG治療  

  ・現況、個人輸入製剤で国内自給は出来ていないが、早期の国内承認が期待されている。

5.塩化ラジウム(223Ra)注射液「ゾーフィゴ静注」

    初めてのα線放出RI内用療法薬です。国内では2016年に承認され、2017年には飛躍的に
   治療数が増えました。現在は骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌のみ対象となっていますが、
   今後は他のがん種でも適用となる可能性があり、更なる普及拡大が期待されます。

  ・効能効果:骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌 

  ・塩化ストロンチウム(89Sr)の効能が疼痛緩和のみであったのに対し、 塩化ラジウム(223Ra)は
   予後の改善が認められる点が有用である。

  ・初めてのα線放出RI内用療法薬。

  ・骨シンチで集積する部位に集積し、同部でα線を放出する。

  ・α線は遮蔽が容易で治療病室不要。入院不要。

   注:α線を用いたTRTの特徴

    ▼α線はHe原子核そのもの。通常の外照射、TRT(β線)の電子の7,200倍重く、飛程が短い。

    ▼がん細胞のDNAを強力に切断(DNA二本鎖切断)し、修復されにくい。

    ▼α線の飛程はがん細胞数個分。周囲の正常臓器への放射線障害が最小限。



<新たなTRT治療薬(国内未承認)>

1.177Lu-PSMA-617

  ・対象疾患:去勢抵抗性前立腺がん

  ・対象群:緩和治療群

  ・ガリウムを使用した68Ga標識PSMA-11によるPETでイメージングし、
   β核種ルテチウム177Lu標識PSMA-617で治療を行う。

  ・68Gaを使用するため、国内導入を困難にしている(後述)。

  ・2021年米国PhaseⅢ終了予定。国内治験準備中。早期の海外承認、国内での
    治験開始が期待されている。

注:PSMA (Prostate-specific membrane antigen) 前立腺特異的膜抗原

    ▼750 のアミノ酸からなるⅡ型膜糖タンパク。

    ▼正常前立腺上皮、前立腺癌上皮や非前立腺組織の一部に発現。

    ▼前立腺癌において、腫瘍の進展と相関。

    ▼ホルモン療法抵抗性および転移性癌で高いレベルで発現。

    ▼PSMA を標的とした免疫治療や抗体治療の研究では、前立腺癌に対する診断・
     治療の標的として注目されている。

2.225Ac-PSMA-617

  ・PSMA標的α線核種を使用した製剤の登場。

  ・対象疾患:去勢抵抗性転移性前立腺がん

  ・国内、海外未承認製剤

  ・ガリウムを使用した68Ga標識PSMA-11によるPETでイメージングし、
   α核種アクチニウム225Ac標識PSMA-617で治療を行う。

  ・68Gaを使用するため、国内導入を困難にしている(後述)。

  ・2016年、ドイツのハイデルベルク大学からの報告では、去勢抵抗性転移性前立腺癌
   治療で、かなり進行した前立腺癌が完全奏功CR(PSA陰性)を示している。

  ・重篤な副作用が少なく、基本的に安全な治療なので世界的な開発競争となっている。

3.PRRT:ルテチウムドータオクトレオテート177Lu-DOTATATE

  ・177Luの国内導入

  ・対象疾患:神経内分泌腫瘍: PNET, 消化管NET, 肺のNETなどの希少疾患

  ・111Inや68Gaソマトスタチン受容体イメージングで診断し、177Luで治療を行う。

  ・β線・γ線放出核種のため、入院が必要であるが、厚生労働省医政局との合意のもと、
   治療病室ないし特別な措置を満たした一般病室(個室)での24時間の入院で治療が
   可能になり、RI治療病室不足問題に苦しむ国内TRT関係者への朗報となっている。

  ・2018年欧米承認。2020年国内製造販売承認申請。



<QST放医研の挑戦(新規薬剤の開発>

1. 64Cu-ATSM(新規β線+オージェ電子放出薬剤)

・対象疾患:脳膠芽腫、悪性髄膜腫などの脳腫瘍

・国産製剤:欧米未承認。2018年国内PhaseⅠ

・これまで62Cu-ATSM (低酸素PET製剤)でイメージング技術として利用していたものを
 64Cu-ATSM(低酸素領域治療薬剤)のβ線が出るものに付け替えることで脳腫瘍の治療に応用。
 まさにthera(g)nostics(診断と治療の融合)の実現といえる。

2.211At-MABG 新規α線放出薬剤

・対象疾患:悪性褐色細胞腫など

3.新規α線放出核種211Atの開発研究

 量研機構では、世界的にユニークな垂直照射法(マグネットを使用して水平のビームラインを垂直に照射)を使って加速器から211At を製造することに成功し、所内・国内他機関へ供給しています。従来ヨウ素を使った治療薬をアスタチンに付け替えることで、様々な治療への応用が期待されています。

  ・半減期7.2時間

  ・平均エネルギー6.79MeV

  ・飛程55-70μm、原料が209Biで安価

  ・209Bi(α,2n)211Atで加速器製造

  ・加速器で国内製造可

  ・100%α線放出であり、γ線を含まないため、基本的に入院不要。

  ・壊変途中の211Po X線を利用すればイメージングにも応用でき、体内動態を
   詳細に追うことができる。

4.次世代α核種225Acアクチニウム-225の開発

 前述した、2016年ドイツのハイデルベルク大学からの報告で高い治療効果が期待できるものですが、原材料が核燃料由来のトリウム229Thのため、日本では炉規法により輸出入が困難な状況です。欧米ではジェネレーターで製造した薬を使っていますが、少量供給のみ可能なため、世界的な供給不足となっています。

 量研機構では、この不足を補うべく新しい製造方法の開発を進めています。従来は廃棄物として扱われていた、原材料となる226Raを廃棄物から確保して、これにプロトン照射をすることで225Acを作るという技術開発に成功し、国内初の試験製造を行いました。国内での225Acの製造が本格化しています。


68Gaの使用に関する問題

 α線核種を含むTRT製剤の医学医療応用には、Scientific/Medical Innovationである製造技術、安全性、コンパニオン診断、Social Innovationである法規制、普及、標準化、社会認知等、様々な課題があります。その中の一つ、コンパニオン診断問題(診断と治療の組み合わせ)では、今後国内導入が見込まれる未承認製剤の多くが現在国内臨床で使用不可となっているガリウム-68のPET診断と対になっていることで、導入にはハードルが高い状況です。

 ガリウム-68は、世界的には広く使用されているにもかかわらず日本では使用できません。これは、ガリウムの製造に使用されるガリウム-68 Ge/Gaジェネレーターを、「医療機器」または「医薬品」のどちらとして扱うかが長年の懸案で、メーカーが参入できなかったという背景があります。2018年に「Ge/Ga ジェネレーターを原料としPSMA自動合成装置の薬機法承認を目指す」と厚労省で合意できました。しかし、PET4核種でなくRI法対象のため外運搬も不可能であることや、GLPに準拠した非臨床安全性試験を行うにもRI法で68Ga使用許可のある試験施設は日本には存在しないこと、およびジェネレーターの需要の増大による価格高騰のため、PSMAに関してはガリウム-68から18F製剤へのシフトの動きがあること等、ガリウム-68 PETの国内導入には依然ハードルが高い状況です。

 将来的には、外科手術に代わり得る重粒子線治療と抗がん剤治療に代わり得るα線治療の組み合わせが「切らずに治すがん治療」として注目されていくと考えられます。量研機構では、分子イメージング研究、重粒子線治療臨床・研究など、これまでの成果を生かして、新世代のがん治療・標的アイソトープ治療の臨床応用を目指して参ります。



【これまでの主な活動内容】

開催日・会場

事業内容

報告書

講演会

令和2年2月13日
フクラシア八重洲

「BNCT(ホウ素中性子補足療法)の承認医療への道程」
(大阪医科大学 関西BNCT共同医療センター 小野公二 氏)
「加速器ベースBNCT用治療装置の国内外の開発状況」
(国立大学法人 筑波大学 医学医療系 陽子線医学利用研究センター 熊田博明 氏)

施設見学会

令和元年10月29日

山形大学医学部東日本重粒子センター(山形県山形市)

施設見学会

令和元年5月17日

いばらき中性子医療研究センター(茨木県那珂郡東海村)

講演会

平成31年2月22日
大手町サンスカイルーム

「画像誘導放射線治療の進化とMR-Linac」
(エレクタ株式会社 岩井良夫 氏)
「超高磁場MRIの現状と将来」
(岩手医科大学医歯薬総合研究所 佐々木 真理 氏)

施設見学会

平成30年9月20日

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院
(東京都中央区)

施設見学会

平成30年5月26日

社会医療法人孝仁会 北海道大野記念病院(北海道札幌市)

講演会

平成30年2月15日
フクラシア八重洲

「日本におけるがんの陽子線治療」
(筑波大学附属病院 櫻井 英幸 氏)
「重粒子線がん治療の新たな展開―量子メス開発」
(放射線医学総合研究所 鎌田 正 氏)

施設見学会

平成29年12月2日

公益財団法人 大阪重粒子線がん治療財団(大阪府大阪市)

施設見学会

平成29年5月20日

社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院(長野県松本市)

講演会

平成29年2月8日
フクラシア東京ステーション

「世界の重粒子線施設の現状」
(放射線医学総合研究所 野田 耕司 氏)
 「日建設計における重粒子線がん治療施設設計の歩み」
(株式会社 日建設計 冨田彰次 氏)

施設見学会

平成28年12月17日

社会医療法人 禎心会 札幌禎心会病院(北海道札幌市)

施設見学会

平成28年06月04日

一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院(福島県郡山市)

施設見学会

平成28年03月10日

国立研究開発法人 放射線医学総合研究所(千葉県千葉市)

講演会

平成28年02月05日
フクラシア東京ステーション

「米国における日立の粒子線治療施設普及状況」 
(株式会社日立製作所 藤崎雄滋郎 氏)
「加速器BNCTの普及状況」 
(筑波大学 熊田博明 氏)

施設見学会

平成27年10月16日

一般財団法人津山慈風会 津山中央病院(岡山県津山市)

講演会

平成27年02月09日
フクラシア東京ステーション

「粒子線治療防護に関するICRP Publication」 
(放射線医学総合研究所 赤羽恵一 氏)
「世界の重粒子線がん治療施設の現状と今後の見通し」 
(放射線医学総合研究所 北川敦志 氏)

施設見学会

平成26年11月10日

神奈川県立がんセンター (神奈川県横浜市)

施設見学会

平成26年06月03日

京都大学原子炉実験所 (大阪府泉南郡熊取町)

講演会

平成26年02月05日
日本橋サンスカイルーム

「粒子線治療施設の遮蔽計算」
(高度情報科学技術研究機構 仁井田浩二 氏)
「粒子線治療施設における放射化物」
(放射線医学総合研究所 米内俊祐 氏)

施設見学会

平成25年10月22日

北海道大学陽子線治療施設(北海道札幌市)

施設見学会

平成25年05月10日

九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀県鳥栖市)

施設見学会

平成24年11月13日

慈泉会相澤病院陽子線治療センター(長野県松本市)

施設見学会

平成24年02月17日

名古屋市立西部医療センター(愛知県名古屋市)

施設見学会

平成23年12月04日

財団法人 メディポリス医学研究財団 がん粒子線治療研究センター
(鹿児島県指宿市)

講演会

平成23年11月07日
日本消防会館

「国立がん研究センター東病院の陽子線治療施設運用について」
(独立行政法人 国立がん研究センター東病院 西尾禎冶 氏)
「兵庫県粒子線医療センターの陽子線・炭素線施設運用について」
(兵庫県粒子線医療センター 須賀大作 氏)

講演会

平成23年07月25日
日本消防会館

「PTCOGの歴史」(財団法人 原子力安全技術センター 河内清光 氏)
「粒子線治療と歩んだ30年と今後の展望について」
(元 独立行政法人放射線医学総合研究所 辻井博彦氏)

研究会

平成23年03月03日

放射線医学総合研究所重粒子医科学センター新治療研究棟の視察
講演 「粒子線治療施設の放射線安全管理システム―インターロックシステム、モニタリングシステムについて-」

講演会

平成22年08月23日
日本消防会館

「2025年における日本の高齢者肺癌の診療戦略 -放射線と外科の役割変化-」
(放射線医学総合研究所 宮本忠昭 氏)
(放射線医学総合研究所 飯沼  武 氏)
「重粒子線がん治療等の先進医療の医療経済的評価」
(東京医科歯科大学 川渕孝一 氏)

施設研究会

平成22年05月07日

福井県陽子線治療センター(福井県福井市)

講演会

平成21年11月19日
日本航空会館

「重粒子線がん治療の現状」
(独立行政法人 放射線医学総合研究所 鎌田正 氏)
「PTCOG(ハイデルベルク開催)への参加報告」
(独立行政法人 放射線医学総合研究所 北川敦志 氏)
「医療用加速器へのエネルギー貯蔵装置の適用について」
(国立大学法人 筑波技術大学 佐藤晧 氏)

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